7th AL「OPEN ZOO」(1993)

時代の潮目

1992年と1993年のヒットチャートを見比べると、顔ぶれが明らかに一新されています。その中でも大きな特徴として挙げることができるのが、1992年まではテレビで流れていた音楽が主流、1993年からは有線で流れていた音楽が主流になっているということ。これはどういうことかというと、みんなテレビを追い越してしまったんですよね。テレビという媒体が最新ではなくなってしまった。新しい音楽は、街中で流れている有線が最先端だったんです。リスナーからのリクエストが時代を作り上げた、いわゆるカウンターカルチャーの始まり。

永井真理子というタレント(あえてそう呼ばさせてもらいます)はテレビの人でした。アニメの主題歌を歌い、バラエティー番組のレギュラーを務め、CMやドラマにも出演している。お茶の間を楽しませるマスコット的な存在であり、かつ歌も上手いし、キュートだし、小さいし、よく笑う人だし、眉毛はハの字になるし。そんな、朝のごみ出しの時にいつも笑顔で親しげに挨拶をしてくれていた隣のお姉さんのような方が、ある日突然、ごみを出すだけなのにフーテンのような取り巻きを何人も従え、本人もブーツカットをカランカランさせながらボヘミアンな感じで挨拶をしてくれるお姐さんに変貌してしまった。そんな開いた口が塞がらない驚愕の朝のような作品(まったく意味がわかりません...)が、7枚目のスタジオアルバム『OPEN ZOO』であります。

初のセルフプロデュースということで、この作品はアーティスト永井真理子のファーストアルバムであるとも言えます。どんなアーティストでも、ファーストアルバムというのは粗削りなもので、『OPEN ZOO』も御多分に漏れず、グランジを基調としたオルタナティブサウンドプロダクツが展開されています。闇夜を切り裂く豪快なギターリフで幕を開ける "大きなキリンになって"、ロック的なダイナミズムでカマチョな女子を一蹴してしまう "GONG!"、目が覚めたらGになっていた "HELP" と、怒涛のラウドな世界が繰り広げられます。その屋台骨を支えているのが淳さんのドラムで、とにかくドラムのトラックダウンが素晴らしすぎます。

その反面、"卒業してもサヨナラしても遠くでも" や "南へ"、"あなたがいない" など、不思議とファンやリスナーの恋愛体験に直結している楽曲も多いです。これは、メロディもさることながら、真理子さんの描く歌詞がよりパーソナルな部分を含むことでリアリティを増した結果だと言えます。