10th AL「You're...」(1998)

気負いのない実力

写真家で映画監督でもある蜷川実花氏のフォトグラフで彩られたブックレットの中に、次のような内容の英文がしたためられています。「出産と育児のために離れていた2年半を振り返ると、本当に貴重で必要な時間だったと思います。子育ては素晴らしい。いつも「赤ちゃんのためにがんばろうがんばろう」と思いがちなんですが、そうではなくて、赤ちゃんのように正直で楽観的で気楽にがんばっていければと感じています」。

デビューから10年、記念すべき10枚目のスタジオアルバム『You're...』は、古巣のファンハウスから東芝EMIに移籍しての制作となり、そのサウンド・アプローチもガラリと変わり、めちゃくちゃアダルティで小粋で時にアバンギャルドな作品となっています。それもそのはずで、伝説のプログレバンド、あの安全バンド四人囃子でキーボードやサックスを担当し、米米CLUBのメガヒット曲などのアレンジも担当していた中村哲さんが、このアルバムを全面プロデュースされているのです。

先行シングルとして発売された "うた" から "あなたに負けないくらい" の2曲は、当時、隆盛を誇っていたブリットポップのグルーヴィなうねりを、変わって "海と貝殻" になるとボサノヴァ風からの今まで聞いたことのないナガマリ・コーラスが展開されます。"がんばらなくていい" のグラム・ロック、"boy" のビートルズ的クラシックからのちびっこコーラス、"愛をください" では往年のナガマリ&COZZiを彷彿させ、"nonfiction ~めげるな、つぼみ~" はジギースターダスト、 "車が欲しい" はモータウン、そして、"drops" で再びブリットポップに舞い戻る。からの、"wanna be free" ですよ。なんなんですか、このプログレは。ナガマリ・ソングの中では異色中の異色なんですが、あまりにもカッコよすぎてヤバすぎます。"引っ越しします" では、MIZUNOスキーウェアのCMソングが懐かしい高野寛さんが曲を提供、で、アイリッシュな "私を探しにゆこう" でアルバムは大団円を迎えます。いろんなジャンルが混在しているのですが、トータルで見るとUK寄りのサウンドアプローチがされていて、今までのカラッとしたサザンロックから、どこかジメッとしたブリティッシュな香りが漂ってくる、かなり本格志向のアルバムになっているのです。

ちなみに下世話なことですが、アルバムタイトルは息子さんの名前にちなんでいるようで、そんなところにも母親としての真理子さんを存分に感じることができます。

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