『RE★BIRTH OF 1992 2022.8.7.Sun. KT Zepp Yokohama』

あの日、真理子さんは3万人の大観衆に向かって、こう語りかけていました。

「最近ね、私すごく思うことがあるんです。それは何かって言うと、自分がこの世に生まれてきた意味とか、そして、こうやってみんなに会えるには、なにか理由(わけ)があるんじゃないかなって。きっとこれは、みんなと会える運命なんだろうなって。すごくすごく大切な運命なんだろうなって思ってます」

そんなMCのあと、さわやかな潮風と共に鳴り響いたのは "La-La-La"。ブルースハープが奏でるファンファーレ、煌びやかなペンライトと雨上がりの星空、会場中が一体となったシンガロングと左右に揺れるオーディエンスの波、バンドとホーンセクションのクライマックス。あの夜、会場にいた誰もが永井真理子という存在に心酔し、会場にいた誰もがこれからもずっと永井真理子と共に生きていこうと胸に誓ったのでした。

その半年後、セルフプロデュース第一弾として『大きなキリンになって』のシングル盤が発売されたのですが、ガラリと変わってしまったアートディレクション、ゴリゴリのバンドサウンドサイケデリックなファッションからは、あの横浜スタジアムの面影が完全に消え去っていました。いや、消し去ったと言った方が当てはまるのかもしれません。いずれにしても、この作品からナガマリ肯定派とナガマリ否定派の賛否両論が巻き起こり、ファンの間は完膚無きまでに二分されてしまったのです。そして、踏み絵的な決定打となったのが1993年7月31日に開催された二度目の横浜スタジアムライブ "BIG OPEN ZOO" での結婚発表でした。

一瞬たりとも止まることのない時代の潮流の中で、私たちは、もがいて、あがいて、あらがって、いつ果てるとも知れない荒野の先をただひたすらに歩き続けてきました。切り捨ててきたものもあれば、しがみついてきたものもあって。人間関係に疲れ果て、夢を追うことを諦め、希望も萎んでしまった。惰性でも物事は進んで行くと知れば、あえて行動を起こす必要もなくなっていく。あの日から訪れた歌のない世界というのは、そんな殺伐とした無感情の世界。あの頃、頼りない背中を力強く押してくれた大好きな歌。あの夜、心の痛みをそっと癒してくれた大好きな歌。あの時、みんなで肩を組んで気持ち良く歌い合った大好きな歌。それらの景色はただの想い出でしかなかったはずでした。

去年の夏、そして、先日開催された『Re★Birth of 1992』は、30年前のあの夜の誓い、そして、二分されてしまったファンたちが一堂に会する、ナガマリ・アニバーサリーの祝祭的なイベントであり、想い出でしかなかった大好きな歌たちが再び息吹を戻した瞬間だったのではないかと思います。

デビューからの5年間を見事に凝縮した『1992 Live in Yokohama Studium』のセットリストの豪華さは、今さら私が語るまでもない、TeamMひとりひとりの人生に勇気と希望と夢と愛をもたらした名盤であることは間違いないですし、ライブ盤だからこそのナガマリとヒステリックママのノリに乗ったドライブ感は唯一無二のものでもあります。

そして、感動的なのは『Re★Birth of 1992』のオープニングが『1992 Live in Yokohama Studium』の "La-La-La" のエンディングから始まったということ。あの日の誓いから30年の時を一瞬にして繋いでしまう。この音楽の魔法は筆舌に尽くし難い。歩き続けてきた荒野の先に、こんなにも緑が鮮やかで、光の粒に溢れた世界が待っていたなんて、誰が想像できたでしょうか。

「時間なんか関係ありません。きっかけもぜんぜん関係ありません。でも、最近あった人は欲言えば早く会いたかったよね。でも、これからずっと一緒にいようね」

『1992 Live in Yokohama Studium』で語られたこの感動のMCは、そのままこの日の夜にも当てはまるものでした。30年間、姐さんと共にひたすら歩いてきたファンもいれば、どこかで離れていってしまったファンも少なからずいるはずです。でも、そんなことは瑣末なこと。今、ここで再び出会えたことが素敵なことで、今、この瞬間を楽しめることが素晴らしいことなのです。そして、そんな機会を設けてくださった真理子さんや多くの関係者の方々に深く感謝です。本当にありがとうございます。

去年、ストリーミング配信された『Re★Birth of 1992』のオープニングでは "La-La-La" の映像から始まっていたのですが、今回のBlu-rayではタイトルロゴをバックに音声のみという演出。そして、かつての『1992 Live in Yokohama Studium』の映像作品が、会場に集まった多くのファンのオフショットを散りばめた編集だったところも、同じように『Re★Birth of 1992』でもTeamMのオフショット満載の編集がなされています。30年前、わたし映っちゃった!とはしゃいでいたように、今回もはしゃぐこと間違いなしの作品に仕上がっている。これも30年前となんら変わらないことで、ひとりひとりとの繋がりを大事にする永井真理子というアーティストの魅力であると言えます。

セルフカバーアルバム『Brand-New Door』のアレンジをそのままライブに反映している曲もあれば、当時のアレンジのままのものもありなのですが、その中でも特筆すべきは "キャッチボール" のニューアレンジ。『1992 Live in Yokohama Studium』の壮大なアンセムとシンガロングも最高の感動を呼び覚ますものですが、今回の『Re★Birth of 1992』のアレンジはイントロからして別次元。弦と鍵盤がキラキラと奏でる柔らかで洗練された世界観は、魂の奥深くをそっと包み込み、歌うことも手を繋ぐことも許されないこの世界だからこそ、心と心がより結び合えることを雄弁に物語っている。その世界観は次曲 "La-La-La" も同様で、奇跡的に訪れる明けの明星の輝きのように、ここから始まる一日を確かに歩いていこうと、聴く者の背中にそっと手を添えてくれる。大きくもなければ、偉大でもないけれど、自分らしく歩いていこう。ここで感じることができる運命は、きっと必然で、きっとどこかへ繋がっていく奇跡のはずだからと。

「あの時、もしかしたらここで会えるのは運命かもしれない、ていうような話をして "La-La-La" を紹介しました。でも、今回は約束をしてたような気がします。30年前に約束して、またここで会おうねって、そして、それまでに繋がったみんなを連れて、ここで会おうねっていう約束をしたような、そんな気がしました」

30年前と同じようにMCの紹介から披露された『Re★Birth of 1992』のラストソングは、その名も "Re★Birth"。30年前の出会いも、その後の別々の道も、その歩みの中で経験したことも、今ここで再び繋がれることも、すべてが約束されていたことだったような、その為に今までのすべてがあったような。そんな多幸感に包まれたフィナーレ。

どんなベスト盤よりもベストと言えるアニバーサリーアイテムが、この『Re★Birth of 1992』のBOXセットだと言えます。これは、今この時を大事にしている真理子さんだからこそ表現できる作品であり、私たちTeamMの30年の軌跡でもあります。あの日から経験した幾千もの喜びや悲しみは決して無駄じゃなかった。そして、ここからまた一緒に歩いていける。恐らく、この作品に触れた誰もが永井真理子という存在に再び心酔し、この作品に触れた誰もが再び永井真理子と共に生きていこうと胸に誓う。そんな約束を私たちは30年前に交わしていました。

今、心から伝えます。

みんな、おかえり!そして、ただいま!