1st BEST「大好き」(1989)

第一章のフィナーレ

デビューしてから、わずか1年半でベストアルバムがリリースされるというのもスゴイことですが、そんなアルバムがオリコンチャートの2位になってしまうというのも、めちゃくちゃスゴイことで、それだけ前作の『Tobikkiri』が注目された証だと言えます。

ただ、ベストアルバムと聞くと、アーティストの意向を無視したレコード会社やプロデューサーさん主導のヒット曲寄せ集め的な作品をイメージしやすく、完全に売りに走っていると思いがちなのですが、この作品は、どちらかというとベストセレクションとコンピレーションの中間的な位置づけにあり、古き良き、レコード会社の良心的な作品となっています。過去3作品のオリジナルアルバムからバランスよく選曲されていることに加え、その曲順も申し分なく、これはこれでひとつの作品として楽しむことができるのです。

中でも、前作『Tobikkiri』ではなぜか蚊帳の外になっていた前田先生が、ここで新曲を2曲提供していることがかなり大きくてですね。"Step Step Step" と "少年"、この2曲の名曲ぶりときたらどうですか。綴られている歌詞も、前者は前田先生と亜伊林さんとの共作、後者は真理子さんと亜伊林さんとの共作になっており、このベテラン作家さんに従事している2人の若き表現者という構図がですよ、この黄金のトライアングルがたまらなくファン心をくすぐるんですよね。

意図してなのか、それともまったく無意識なのか、"Step Step Step" と "少年" には共通のワードが登場します。<TV画面に映った瞳 バスルームの鏡に映せば><深夜のTVの画面では少年がひとり走っていた>。そうなんです、どちらの曲にも「TV画面」というワードが出てくるのです。そこで描かれているのは、どこか昔に置いてきてしまったかもしれないあのきらめくような気持ち、あわただしい毎日の中で消えかけてしまいそうになっているあの自由な気持ち、そんなかつての想いを、ふと目にした「TV画面」が呼び覚ましてくれた。大丈夫、まだまだやっていけると鼓舞してくれた。そんなリリックになっています。この感傷的な喪失感を打ち破るカタルシスがナガマリ・ソングの醍醐味であり、代わり映えしない日々に埋没しないように、ただただ前だけを向いて突き進んでいくための栄養補給、それが永井真理子の歌を聴く、わたしたちの理由だと思うのです。