3rd AL「Tobikkiri」(1988)

対流圏へと突入した熾烈な名盤

仕事でも人生でも「勢い」というのは大事なもので、いったん流れに乗ってしまえばコッチのものみたいなところがあったりします。ナガマリにとってのそれは "ロンリイザウルス" であり、シングル曲として初のチャートインを果たした記念すべき楽曲であり、その歌詞の一節をタイトルに冠したのが、この3枚目のスタジオアルバム『Tobikkiri』であります。クラウチングポーズをバシッと決め込んでいるジャケットが物語っているように、ここから走っていきまっせー、こっからが本番ばいっ!と、目の前に広がる夢をまっすぐに見据えている真理子さんが実に印象的で、その勢いがそのまま作品としても昇華されている80年代の名盤でもあります。

当時はカセットテープやレコードが主流でしたので、アルバムの構成もA面B面を意識した曲順が当たり前。特にA面の"Fight!" から "ロンリイザウルス" の5曲は、全曲が亜伊林さんの作詞曲であり、恋愛情景をモチーフにしながらも底流に流れるそれはれっきとした応援ソングだったりしているわけで、隣のお姉さんがそっと背中を押してくれるという、元気印のパブリックイメージが世のリスナーに浸透していくこととなります。変わってB面になると、只野菜摘さんの詩世界にシフトチェンジ。どこか真理子さんに通じる柔らかいポエム的な言葉選びが特徴で、名詞を多用することでメロディーと心象風景が見事に合致していきます。"Change" の<ストローの先とキッチンの洗剤は危ないからと言われた>や、"Dear My Friend" の<あしたへと続く坂道の途中>など、曲を聴くとあの風景が眼前に拡がり、真理子さんのひたむきなボーカルが相まって、心地よい郷愁の想いがそっと心に仄かな灯火をあててくれるのです。

前作までの打ち込み系のトラックは完全に鳴りをひそめ、"Brand-New Way" の系譜を辿る "自分についた嘘" や "コンタクトレンズ・スコープ"、"Why Why Why" などスケールの大きいアメリカンハードロックがグイグイと聴く者のテンションを爆上げしてくれます。90年代に花開くJ-POP、もしくはガールズポップの黎明期は明らかにこの頃であり、<勇ましく自由に気流をかけめぐる>ジェット機亜音速で、このアルバムは上空5000メートルのポジティビティな時代のストリームへとリスナーを突入させていったのです。

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