3rd BEST「yasashikunaritai」(1992)

自律神経を整える歌

歯医者さんの待合室のBGMといえばクラシック音楽。それもショパンモーツァルトやバッハなどのピアノ曲が多いですよね。その理由は、これらの楽曲は聴くだけでα波が出やすくなり、リラックスした状態で順番を待つことができるからと言われています。かつヒーリングやストレス緩和の効果もあり、緊張や不安を和らげることもできると。特にモーツァルト全般やバッハの "G線上のアリア" は効果が高いそうです。

で、ナガマリ・バラードですわ。姐さんの歌声にα波を出しやすい効果があるかどうかはわかりませんが、ただ、このバラード集に耳を傾けた時、ヒーリングであったりリラックスであったりを感じることは、まあ、あるのではないかと。ピアノ曲であったり、アコギ曲であったり、もともとのアレンジの良さもありますが、やっぱり一番に魅力的なのは真理子さんのボーカル。<泣きたい日もある>と、ピアノと共にいきなり歌い出しから始まる3枚目のベストアルバム『yasashikunaritai』は、CDジャケットの眼差しのように、こちらへまっすぐに伸びてくるナガマリ・ボーカルを味わうことができる珠玉のバラード・セレクションになっています。

辛島さんや前田先生に藤井さんや北野さんが編み出すメロディの良さは言わずもがな、そこに真理子さんのボーカルが際立つのは、言葉の発音の良さ、特に日本語の発音の良さが歌声としてスッと耳に入ってくる心地よさがあるからと言えます。しかも、曲の冒頭、歌い出しにその特徴が顕著にあらわれています。<泣きたい日もある><ほどけた靴ひも><雨が降り出した><ため息のたびに何かが乾いていく気がして><初めて君が涙を見せた>。どれもパッと情景が目の前に浮かび、不思議なことに、言葉そのものにパワーを感じることもできるという。「靴ひも」なんていう素朴すぎる単語が魅力的に響き、普通の会話すぎる「雨が降り出した」という述語が、どこか素敵な体験のように感じられる。これは、真理子さんの天性の声質もありますが、メロディと言葉のバランスをとても大事にしながら歌っているからこそ、ナガマリ・バラードが心にさらりと響いてくる理由なのではなかろうかと。さらに、8枚目のシングル "TIME -Song for GUNHED-" のカップリングに収録されていた "あなたを見てると" のスケール感といったら、どうですか。<美しいこの世界>を一瞬で感じることができる。そんな曲を歌えるシンガーは、なかなかいないですよね。