15th AL「Life is beautiful」(2017)

人生の再始動

2017年、デビュー30周年の年にリリースされた10年ぶりの作品『Life is beautiful』。もともとは配信限定でしたが、たぶん、思いのほか反響が大きかったのと、真理子さんの復活を喜ぶ世代となると、なかなか音楽配信というものが未知の世界すぎるというところもあり、後に新曲2曲を追加してのフィジカル盤がリリースされる運びとなりました。配信で手軽にいつでも新しい音楽を楽しめるのもいいのですが、やはり私たち世代ともなると、CDとして手元に置いておきたい、歌詞カードを見ながらじっくりと歌を味わいたい、スマホやモバイルではなくてステレオやカーステで聴きたい、できればアーティストの写真はいっぱい載っていると嬉しい、そんなところもありますよね。

アルバム・タイトルに「Life」とあるように、今までのディスコグラフィーの中でもズバ抜けて「人生」についての歌が多い、というか、「人生」についてしか歌っていません。それもそのはずで、10年ぶりに活動を再開するとなれば、やはり今後の人生について、いろいろと思いを馳せるのは当たり前のことで、そういう部分を生身の言葉で表現をされるのが真理子さんでもあると思うのです。

"私たちの物語" は、普通にご夫妻の物語であり、今まで歩んできた道は間違いでもないし、後悔もしていないし、言うなれば<まばゆい金の粉がふたりにそっと降り積もってゆく>とあるように、今まで以上に輝きを増していると。"ミルク飴の味 ~for my mother~" では、お母様へフォーカス、娘としての自分と母親としての自分をフラッシュバックしながら<これからはあなたの様に強くなるよと心に決めたんだ>と。"Winter song" は、生まれたばかりの自分自身に対して、そこから始まっていく人生に何も恐れることはないと励ましています。ちょいとコミカルな "幸運の女神よ" でさえ、<人生の大勝負>、お願いだから助けてちょうだいと珍しく他力本願にすがり、"I know right?" は親友への想いを軽快なリズムに乗せ、今は曇り空でも大丈夫、そのうち晴れ間がやってくるからと、10年ぶりの復活劇での心模様を重ね合わせている。そして、"life is beautiful" です。<最後は笑顔で終われるように生きて行こう>と、後悔のない人生を歩いていく決心を固めています。

最初にリリースされた配信EPの1曲目は "Starting" だったのですが、変な話ですけど、ナガマリ復活前に、こんな30周年記念ベストが発売されたらいいなと思って大嘘CDの発売告知をブログにあげたのですが、そのタイトルが「The Starting Point」だったんです。偶然だとは思うんですけど、勝手に一人ほくそ笑んでしまいました。

Life is beautiful - EP

Life is beautiful - EP

  • 永井 真理子
  • J-Pop
  • ¥1222

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9th BEST「my foot steps -20th anniversary memorial collection-」(2007)

紆余曲折の軌跡

デビュー20周年を記念してリリースされたベスト盤。1枚目はレーベルの枠を超えた真理子さん本人のセレクションによるオールタイムベスト。2枚目のDVDには'94年に放送されたNHK「BEST STAGE SELLECTION」と、'92年の横浜スタジアムLIVEが2曲、"かたちのないものが好き" と "あなたのそばにいて" のMVが収録されています。

これまでにも本人が携わっていたり、そうでなかったりのベスト盤がリリースされていましたが、ここでやっと本来のアニバーサリー作品がお目見えした感じです。楽曲自体も最新のリマスタリングが施され、各アルバムごとにバラバラだった音量も一定に調整されています。DVDも含めて永年仕様のアルバムなのですが、2011年にリリースされた『GOLDEN☆BEST ~Complete Singles Collection~』以降、こちらのアルバムは廃盤となっています。新旧のユーザー向けにも、ぜひ再発して欲しいカタログではありますが、モデルチェンジした35周年バージョンでもいいです。お願いします、ソニー・ミュージックさん。

なにはともあれ、ここに収録されている楽曲というのは、本当に真理子さんの核になるものばかりで、その絶妙なセレクト具合がたまらないものになっています。前田先生の "One Step Closer" から始まり、お父様への想いを綴った "ありがとうを言わせて..."、初の作詞作品 "Mariko"。ヒット曲の "ミラクル・ガール" に "ZUTTO" からの "White Communication-新しい絆-" と押さえるところは押さえる。ポップな "日曜日が足りない" に、ウェディング・ソング "my sweet days"、こちらは初の作詞作曲になる "暖かい雪"。シンガーとしての意思表示をしてみせた "うた" に、息子さんへの想いを綴った "boy"、時代の潮流に成す術がなくなってしまった "同じ時代"。それでもやっていけるぞと "Tobujikandesu" で跳ね上がって見せ、"ミエナイアシタ" で希望はそこにあると願う。そして、20年経った想いを綴った "あいのうた"。お分かりのように、それぞれの時代を3曲ずつで構成されていて、アーティストとしての成長と軌跡を流れるように味わうことができるのです。

14th AL「Sunny Side up」(2006)

陽の当たる場所へ

最初に言っておきます。ナガマリ14枚目のスタジオアルバム『Sunny Side up』が、真理子さんの最高傑作であり、最高到達点であり、揺るぎない名盤だと断言します。んなわけないだろ!という反論は認めませんし、これで最高かよ!という茶々も認めません。これが最高で、これが最大で、これがナガマリです。ジャケットも最高なら、ブックレットの中身も最高で、収録されている曲順も楽曲も歌詞もメロディもアレンジも全てがすべて最高。ビートルズでいうなら『アビー・ロード』、ツェッペリンでいうなら『レッド・ツェッペリンⅣ』、エアロスミスでいうなら『ゲット・ア・グリップ』みたいな。

2006年という時代を振り返った時、思い浮かぶのはダニエル・パウターやジェームス・ブラントなどの泣きメロディの復刻が特徴で、そこにインスパイアされたのかどうかはわかりませんが、アニキが紡ぎ出すメロディがまた天下一品なんです。この頃に共同制作していたYUIから、若い原動力を受け取ったという面もあるかもしれませんし、そこからの化学反応なのか、真理子さんまで "story" で泣きのメロディを披露していたりします。なにはともあれ、全体的にメロディが秀逸で、拱手傍観してる場合じゃないだろー!と歌う "TRAIN" でさえ、高みに昇るようなメロディとリフが全開というのが、このアルバムの勢いがとんでもないエネルギーに満ちていることを裏づけています。

1曲目の "paper plane" で<昨日の日記を破って作った紙飛行機>を空へ飛ばし、そのまま "空へつづく階段" を駆け上がり、"ミエナイアシタ" で見えてきた<迷いの先にのぞく晴れ間へ>と進んでいく。"NORTH BRIDGE" や "BlueのVespaで" のオーストラリアの風景、そこから導かれるのは "story" で歌われている<風向き通り 逆らわず進もう>というナチュラルな心情。"TRAIN" で日本とオーストラリアを比較し、<ずっとアゴ下げていると過去の傷思い出すの>と、"このこころ" では空を見上げて全てを抱きしめようとします。藤野くん提供の "fortune smile on me" で<幸運を全て吸い込め>と、"small history of love" では<胸に詰まった重い雨雲>をふっと息でかき消し、ラストの "ひかりの粒" で<希望を残したまま 運命に乗って>これからを生きていこうとアルバムは幕を閉じます。

2005年に開催されたアコースティック・ツアーの会場限定で発売されたEP『BOIL EGGS SOFT』がゆで卵なので、『Sunny Side up』はさしあたり目玉焼きなのかなと思いますが、ジャケットが表しているように「陽の当たる高みへ」という意味が、やっぱり釣り合うのかなとも思ったり。

Sunny Side Up

Sunny Side Up

  • 永井 真理子
  • J-Pop
  • USD 13.99

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13th AL「AIR」(2004)

自浄作用からの再出発

今ではYouTubeなどのストリーミングやiTunesなどのサブスクリプションが普通になっていますが、ひと昔前はインディーズ・ロックと聞くとマイナーなイメージしかなく、その流通規模から、なかなか一般のリスナーまで音楽が届くことはありませんでした。さらに、かつてはスタジアムを埋めるほどの人気を誇っていたアーティストが小規模な活動でミニマルになっていくというのも、時代というか、イチファンとしてなんだか寂しい気もして。ここでもう一発、ドカンと大きな花火でも上げてくれないかなと、巷でにぎわうフェスなんかを見ながら思ったりもして。だけど、アーティスト側からすると、そこには絶対に行かないんだろうな、というのもイチファンだからなんとなくわかったりもして。

自主レーベル「BLUE TONGUE」を立ち上げ、ゼロからナガマリ&COZZiで作り上げたアルバムが13枚目のスタジオアルバム『AIR』になります。BLUE TONGUE=青舌とそのまま訳すべきなのか、BLUE TONGUE=蒼い言葉と訳した方がいいのかはわからないのですが、いずれにしても、あまり健康状態がよくない、もしくは大人になりきれない未熟さみたいなイメージがあります。まあ、レーベル名だけですべてを表現しているわけではないと思いますし、ブランド名に意味を持たせてもという感じもしますが、作品を作るうえでのスタンスみたいなものは、少なからずこの単語の中に含まれているような気もします。

オーストラリアという新天地の空気を存分に吸収して制作されたアルバムは、全体的に緩やかな曲が多く、それはそのまま当時の真理子さんの心の状態を音像化したのではないかと。"蒼のまま" や "光に向かって" や "風が吹く時" の、なんて言うんでしょ、こう自分を鼓舞するための音楽が、当時はディストーションだったのかなと思う反面、"私の一日の真ん中で" や "You Rock" "Tobujikandesu" のようなシンプルなロックも健在。"やさしい空気" や "天国の島" "おやすみ" のアコースティックは、その悠久の時に身をゆだねる心地よさがあります。個人的には "ふたつの心" が大好きで、ちょいとファンク寄りの跳ねたリズムがカッコよすぎなんですが、これもオーストラリアという多国籍文化に触れることで初めて着想を得られた楽曲なのかなと。いずれにしても、復活後の真理子さんとCOZZiさんの制作スタンスの礎は間違いなくこのアルバムで、今現在につながる小さいけれども大きなターニングポイントといえます。

AIR

AIR

  • 永井 真理子
  • J-Pop
  • ¥2444

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12th AL「そんな場所へ」(2002)

破壊と再生

こちらのアルバムについては、去年、ふと思い立ってレビューしてみましたので、そちらのページをリンクしておきます。

デビュー15周年記念、21世紀型のナガマリを存分に味わえる12枚目のスタジオアルバム『そんな場所へ』。東芝3部作の完結編となる作品ですが、この在籍期間を振り返ってみると、ドリカムの正人さんから始まって、中村さんのプログレ、西川さんのギターロックから、最終的に響子さんに戻ってきた感があります。これって、前田先生から始まって、亜伊林さんの叱咤激励を受け、元春さんや陣内大蔵さんのロック的な後押しからの、最終的に京子さんにたどり着いた経緯に似ているような気がします。そういう意味では、"泣きたい日もある" と "同じ時代" の2つの楽曲は対になっているのではないかと。

"泣きたい日もある" では<自分の年 思いながら ほおづえをついた>とあり、"同じ時代" では<自分の年 数えるよりも 変わり続けてたい>に変化しています。どちらの楽曲も月日の流れに思いを馳せていて、どこまで続くかわからない人生に対して<ただ嘘をつかず やって行けたなら それでいいと思う>と歌っていた主人公は、その10年後、<朽ち果てて行くもの 残り行くもの 誰も決められない>と、だから、<同じ時代に生まれたことを いつも感謝をしたい>と、哀しいことも多いけれど、そういったものも一切合切、腹に納めて生きていくしかないと、そんな決意に満ちているのです。

そして、その決意は、海外への移住と自主レーベルの立ち上げへつながっていきます。

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11th AL「ちいさなとびら」(2000)

ミレニアムの異種格闘技戦

変な話ですけど、世界って1999年の7月で終わると思ってたんですよ、自分。いや、本気で信じてたのか?と言われると、ほとんど朝の占いレベルでくらいしか意識していなかったんですけど、それでも'99年の7月が当たり前のように過ぎて、8月になり、年の瀬が迫ってきた12月に、どうやら2000年というのはミレニアムというらしいと知り、年末のカウントダウンでハッピーミレニアム!なんて騒いでいても、なんていうんでしょ、そっか、普通に人生は続いていくんだなぁと思ったんです。終わって欲しかったわけじゃなくて、なんか生きていく長さって途方もないような気がしたというか。

そんなミレニアム(どんなミレニアム?)にリリースされた11作目のスタジオアルバム『ちいさなとびら』。もうね、当時は来るところまで来たかなと思ったものです。だって、ナガマリじゃないんだもん。帯のないジャケットだけを見たら誰のアルバムなのかもわからないし、風船ガムがはじけちゃったというところも、なんか膨らんでいた何かも一緒にしぼんじゃったような気がして。

感じ方によるのかもしれませんが、東芝時代になってからの真理子さんというのは、野球に例えていうなら、今までバリバリのセ・リーグのスタメン選手だった人が、急にパ・リーグのピンチヒッターになってしまったみたいな感じが、自分の場合はどうしてもしてしまいます。歌詞的にも、松本隆氏の<愛が醒めていく いきなり加速度を増して壊れていく><もらったペンダントなくしたの>、遠藤響子さんの<生きるスピードがわからなくなる>など、ネガティブなワードが多く、その世界観もわからなくはないのですが、どうもナガマリチックではないというか。サウンド的にも、西川進さんのゴリゴリのギターロックは嫌いじゃないし、THE BOOMの小林さんとか今まで絡みのなかった方達とのコラボもいいのですが、ナガマリじゃない感がどうしてもつきまとうというか。そんな中でも "くちびる銀河" はうまく機能している楽曲だとも思います。

んでもっての、真理子さん作詞・作曲の "12月の空へ" です。冒頭から<ガラスに笑顔が映るその度に 嘘でできてる自分が嫌になっていく>と、サビでも<空よ 私の生まれた12月の空よ そんな簡単に心なんか開けない>と、あまり穏やかでない心境が綴られています。この楽曲がすべてではないと思いますが、やはり、このミレニアム・アルバムを象徴するような楽曲だとも思わずにはいられないのです。

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10th AL「You're...」(1998)

気負いのない実力

写真家で映画監督でもある蜷川実花氏のフォトグラフで彩られたブックレットの中に、次のような内容の英文がしたためられています。「出産と育児のために離れていた2年半を振り返ると、本当に貴重で必要な時間だったと思います。子育ては素晴らしい。いつも「赤ちゃんのためにがんばろうがんばろう」と思いがちなんですが、そうではなくて、赤ちゃんのように正直で楽観的で気楽にがんばっていければと感じています」。

デビューから10年、記念すべき10枚目のスタジオアルバム『You're...』は、古巣のファンハウスから東芝EMIに移籍しての制作となり、そのサウンド・アプローチもガラリと変わり、めちゃくちゃアダルティで小粋で時にアバンギャルドな作品となっています。それもそのはずで、伝説のプログレバンド、あの安全バンド四人囃子でキーボードやサックスを担当し、米米CLUBのメガヒット曲などのアレンジも担当していた中村哲さんが、このアルバムを全面プロデュースされているのです。

先行シングルとして発売された "うた" から "あなたに負けないくらい" の2曲は、当時、隆盛を誇っていたブリットポップのグルーヴィなうねりを、変わって "海と貝殻" になるとボサノヴァ風からの今まで聞いたことのないナガマリ・コーラスが展開されます。"がんばらなくていい" のグラム・ロック、"boy" のビートルズ的クラシックからのちびっこコーラス、"愛をください" では往年のナガマリ&COZZiを彷彿させ、"nonfiction ~めげるな、つぼみ~" はジギースターダスト、 "車が欲しい" はモータウン、そして、"drops" で再びブリットポップに舞い戻る。からの、"wanna be free" ですよ。なんなんですか、このプログレは。ナガマリ・ソングの中では異色中の異色なんですが、あまりにもカッコよすぎてヤバすぎます。"引っ越しします" では、MIZUNOスキーウェアのCMソングが懐かしい高野寛さんが曲を提供、で、アイリッシュな "私を探しにゆこう" でアルバムは大団円を迎えます。いろんなジャンルが混在しているのですが、トータルで見るとUK寄りのサウンドアプローチがされていて、今までのカラッとしたサザンロックから、どこかジメッとしたブリティッシュな香りが漂ってくる、かなり本格志向のアルバムになっているのです。

ちなみに下世話なことですが、アルバムタイトルは息子さんの名前にちなんでいるようで、そんなところにも母親としての真理子さんを存分に感じることができます。

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